おいでよ!トノフォン航空公園 第1回

2015.03.26 Thursday

トノフォンフェス運営スタッフから「トノフォンフェスのPRのために、ひとつフェスに足を運びたくなる様なコラムをよろしく!」という依頼を受けたため、今回トノフォンフェスについての文章を書くこととなった。今回の出演者、トノフォンフェスの歴史など、書く題材は色々あるが、まずは会場の航空公園についてだろうと思い、私は取材のために航空公園に向かった。この日は知人の紹介で、航空公園に詳しいというI氏に公園内を案内してもらうことになっていた。

I氏とは航空公園駅の改札口で待ち合わせた。改札を抜けると、ジャケットにチノパンをカジュアルにコーディネートした、にこやかな40代くらいの男性が待っていた。
「Iさんですか?はじめまして」
 「あ、どうも、はじめましてIと申します。くそったれ!」 
初対面のI氏に挨拶をしたら、いきなり罵られてしまった。私は面食らって
「あの、何か失礼でも……」
と尋ねたら、
「何ですか?」
と何事もなかったかの様である。私は気を取り直して、航空公園を案内してもらう事にした。

 「航空公園は正式名称を『所沢航空記念公園』といいます。元々は1911年にできた日本初の飛行場、所沢飛行場がありました。日本で初めて飛行機が飛び立ったという場所で、日本の航空発祥の地として知られています。ちくしょう!友達だと思ってたのによ!」 
と、I氏がまた急に激昂したので、私は驚いて固まってしまった。しかしI氏は何事もなかった様に、にこやかな表情で、
「あ、航空公園は東口から出てすぐです」
と案内を続けるのである。

しばらくこの調子でI氏と話していて気づいたが、どうやら彼は過去の辛い出来事について、無自覚にひとり言を言っている様なのである。本人に自覚がないならしょうがないので、私はとりあえずI氏のひとり言は無視することにした。

「所沢飛行場から飛び立った日本初の飛行機は、アンリ・ファルマン複葉機で、航空公園駅の外観もその複葉機をモチーフにデザインされているんですよ。周りの奴らも周りの奴らだよ!」
「そうなんですね」
 「公園には、日本の航空発祥100周年の石碑もあるので、後で見にいきましょう。どいつもこいつも嘘つきだ」 
「はい」
I氏に何があったのか気になるところである。

公園に入って少し歩くと、大きな飛行機が展示されていた。
「あの飛行機は何ですか?」
「YS-11です。戦後初の国産旅客機なんですよ。展示自体は平成9年から行われています。あれは2ヶ月前のことだった。俺はいつもの様に行きつけのバーで飲んでいた」
「あ、割と最近の話なんですね」
 「そうですね、60年代に開発された機種ですが、現役で運用している所もあるみたいですよ。その日、バーの常連で飲み仲間の松岡が、いい儲け話がある、と言ってきた。しかし、話を聞くとそれは違法なヤマだった」 
「それってヤバくないですか」
「いやいやそこは”ものづくりニッポン”、古い機種でも安全性はしっかりしてますよ。フェス会場の野外ステージは、この先の連絡橋を渡った先です。俺は躊躇したが、松岡は、お前は準備に必要な金だけ出してくれれば儲けた金の半分をやる、と言った。それで俺はその話に乗ることにしたのだ」
「危ない橋を渡るってやつですね」
「なにを言ってるんですか、この連絡橋はコンクリート製で、フェスで沢山の人たちが渡ってもビクともしませんよ。橋を渡ってすぐ道を右に曲がって、道なりに進むと野外ステージです。金を渡すと、それ以降あいつと連絡が取れなくなった。お決まりのパターンさ」
「なるほど、分かりやすい」
「はい、当日は会場への案内板も出せるので、野外ステージまでの道順を迷うことはないと思います。バーの他の常連たちに聞いても、松岡の行方は知らないという。それで、もう居るはずもないと思いつつ、松岡の家を訪ねた。『松岡』という表札は出たままだが、もちろんすでにあいつが居る様子はなかった。その時、俺は松岡の家の外観に何か違和感を感じていたが、それが何かは分からなかった」

私たちは、野外ステージに着いた。野外ステージはイベントがある日以外は閉まっているので、私たちは元来た道を引き返した。
「その時に感じた違和感がどうも気になって、翌日にもう一度、松岡の家を訪ねることにした。家の前に着くと、一日の間に、表札が『松岡』から『岡本』に変わっていた。表札が『松岡』から『岡本』に変わる……『松岡』から『岡本』……。その時、俺はとんでもないことに気が付いた。いや、こんなことにも気が付かなかったなんて!そして玄関のドアを強引に打ち破り、家の中に入ると、俺は自分の予想通りの光景を目にした」
と言って氏は足を止めた。

「それから?」
と私も足を止めて尋ねると。
「これで終わりです」
とI氏は答えた。
「以上が、航空公園駅の改札からトノフォンフェス会場の野外ステージまでの往復の道のりです」
どうやら、I氏のひとり言を夢中になって聞いているうちに、気がついたら駅の自動改札の前に帰って来ていた様である。(それだけ駅から野外ステージへのアクセスが良い)

取材を終え、これ以上I氏に用事はないので、礼をしてそのまま改札を抜けて帰る事にした。振り返ると、I氏がにこやかな笑顔で見送ってくれていたが、その表情から彼が何を見たのかを読み取る事はできなかった。

 
TONOFON FESTIVAL 2015
コメント
はじめまして。
楽しい暮らしを営んでいますでしょうか。

PR記事、後半はよくわかりませんでした。
前半は、麦踏みのネズミと、村上春樹さんの
ネズミをひっかけているのかな?と思いました。

中盤は阿部和重さんのか。。?とも思いましたが、
どうなんでしょうか。

次回作も楽しみです。
  • by みなみ
  • 2015/04/26 10:34 PM
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